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青森地方裁判所 昭和32年(行)15号 判決

原告 三浦藤一 外一一名

被告 青森県選挙管理委員会

主文

原告山川、同開米、同野呂の各訴を却下する。

被告委員会が五所川原堰土地改良区総代選挙に関し、訴願人小田桐惣十郎が第一選挙区の選挙につき申立てた訴願、訴願人館山藤三郎が第三選挙区の選挙につき申立てた訴願、訴願人高橋与助が第四選挙区の選挙につき申立てた訴願、訴願人藤田進が第六選挙区の選挙につき申立てた訴願、訴願人平山千代吉が第七選挙区の選挙につき申立てた訴願、訴願人奈良岡弥次右エ門が第九選挙区の選挙につき申立てた訴願について、昭和三十二年六月二十日なした裁決を取消す。

原告小笠原、同成田、同高橋文治の各請求はいずれも棄却する。

訴訟費用中原告山川、同開米、同野呂、同小笠原、同成田、同高橋文治と被告間に生じた分は右原告等の連帯負担とし、爾余の原告等と被告間に生じた部分は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

原告三浦の請求として被告委員会が五所川原堰土地改良区第一選挙区の総代選挙の効力に関する訴願(訴願人小田桐惣十郎)につき昭和三十二年六月二十日なした裁決を取消す

原告小笠原の請求として前同第二選挙区の総代選挙の効力に関する訴願(訴願人山形兼四郎)につき前同日なした裁決を取消す

原告外崎の請求として前同第三選挙区の総代選挙の効力に関する訴願(訴願人館山藤三郎)につき前同日なした裁決を取消す

原告高橋市太郎の請求として前同第四選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人高橋与助)につき前同日なした裁決を取消す

原告山川の請求として前同第五選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人原清司)につき前同日なした裁決を取消す

原告藤田の請求として前同第六選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人藤田進)につき前同日なした裁決を取消す

原告鹿内の請求として前同第七選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人平山千代吉)につき前同日なした裁決を取消す

原告成田の請求として前同第八選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人木村賢十郎)につき前同日なした裁決を取消す

原告藤森の請求として前同第九選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人奈良岡弥次右衛門)につき前同日なした裁決を取消す

原告開米の請求として前同第十選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人開米佐太郎)につき前同日なした裁決を取消す

原告高橋文治の請求として前同第十一選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人佐藤勇)につき前同日なした裁決を取消す

原告野呂の請求として前同第十二選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人葛西治)につき前同日なした裁決を取消す

旨並に原告全員の申立として訴訟費用は被告委員会の負担とするとの判決を求め、その請求原因として

一、五所川原堰土地改良区(以下改良区と謂う)の総代の選挙に関しては、その定款第九条により別表第一のとおり第一区から第十二区までの選挙区が設けられている。

二、昭和三十一年十一月二十二日土地改良法施行令第五条により五所川原市選挙管理委員会管理の下に右改良区総代の総選挙が行われた。

三、原告三浦は第一選挙区の、同小笠原は第二選挙区の、同外崎は第三選挙区の、同高橋市太郎は第四選挙区の、同山川は第五選挙区の、同藤田は第六選挙区の、同鹿内は第七選挙区の、同成田は第八選挙区の、同藤森は第九選挙区の、同開米は第十選挙区の、同高橋文治は第十一選挙区の、同野呂は第十二選挙区の各選挙人であり、且つ原告山川、同開米、同野呂を除くその余の原告等はいずれも右選挙において総代に当選したものである。

四、しかるに第一選挙区の選挙人小田桐惣十郎、第二選挙区の選挙人山形兼四郎、第三選挙区の選挙人館山藤三郎、第四選挙区の選挙人高橋与助、第五選挙区の選挙人原清司、第六選挙区の選挙人藤田進、第七選挙区の選挙人平山千代吉、第八選挙区の選挙人木村賢十郎、第九選挙区の選挙人奈良岡弥次右衛門、第十選挙区の選挙人開米佐太郎、第十一選挙区の選挙人佐藤勇、第十二選挙区の選挙人葛西治は各所属選挙区の選挙の効力につき選挙の規定に違反があるとして昭和三十一年十二月四日各別に前記選挙管理委員会に異議を申立て、これに対し同三十二年一月十日各棄却の決定がなされた。そこで右の者等は同年二月九日各別に被告に訴願し、被告は右訴願の一部を併合して審査し、同年六月二十日原決定を全部取り消し、前記第一ないし第十二選挙区における選挙を全部無効とした。

五、右裁決において選挙を無効とする理由は概ね被告が本件訴訟において主張するところと同じであるが、その見解の誤りであることは原告等の後に反駁するとおりである。

六、以上のような次第で被告のした前記各裁決は違法であるから原告等はその取消を求めるため本訴に及んだ。

右選挙の効力に関し土地改良法施行令には公職選挙法における如く選挙人が民衆訴訟として出訴し得る旨の規定はない。しかし総代の選挙人は本来改良区の総会の構成員であるところ、右選挙は総会に代る総代会の構成員を選出するものであつて公職選挙法上の公職などとは較ぶべくもなく、恰も私人が代理人を選任するが如き遥かに密接に個人的利害に直結するものがあるのであるから、その選挙が適法に行われ、亦適法に行われた選挙の結果を違法に取消されないことの直接の利害関係を有するものというべきである。それ故前示被告の違法な裁決に対してはこれを抗告訴訟として出訴し得るものと考える次第である。就中原告等中前記当選人である者においては特に出訴の適格を有すること明白である。

と述べ、

被告主張の事実中、本件選挙において別表第一の各選挙区を旧町村別にまとめて被告主張の五投票区としてその主張の場所を投票所とし、被告主張の者等が投票管理者、同立会人に選任されてその主張の者等が現実にその職務を行つたこと、又右全選挙区につき一括して被告主張の場所で主張の者等の関与の下に選挙会の事務を行つたこと、選挙会場の告示は市選挙管理委員会がしたこと、選挙当日の有権者数及び投票総数が別表第三のとおりであること、以上の事実は認めるがその余の事実は否認する。本件選挙の管理執行には何等の違法もない。すなわち、五投票区を設けたといつても選挙区を無視して投票を混同したものではなく、単に数個の選挙区の投票場を同一場所に定めたにすぎず、右投票場における投票は各選挙区ごとに用紙を異にしその間全く混同を生ずる余地をなからしめたのである。而して右投票場は本件土地改良区規約第四十一条により設置された投票区について市選挙管理委員会と協議して設けたものであるのみならず、土地改良法施行令によるも投票場は当該選挙区内に設けなければならないとの定はなく、要は選挙権の行使に支障のない場所に設ければ足りるものと解せられる。そして本件の場合には合併前の旧町村の区域内に一ケ所ずゝ投票場が設けられたのであるから投票をなすにつきなんらの不便がなかつたのである。被告は投票所が他の選挙区内に設けられたため棄権を多からしめたことが疑われるというけれども、第一、第六、第九、第十、第十二の各選挙区はその選挙区内に前記投票所が設けられたのであるからその限りにおいては右は全く当らない議論であり、爾余の選挙区にとつても投票所までの距離は遠くも二キロメートルを出でないのであるから投票の便、不便を論ずるに足らず、被告の右主張は理由がない。また選挙会場についていえば、十二の選挙区の選挙会場が同一の場所に指定せられ、右選挙会場において各選挙区ごとに当該選挙区の投票により当選人が決定されたものであつて、決して全選挙区の投票を混じ各選挙区につき定められた総代の数を無視し全選挙区を通じ当選人を決定したものではない。そして選挙会議についても亦必ず当該選挙区の区域内に設けなければならないとの規定はないから右のような措置もなんら違法ではない。そして右のように数個の選挙区の投票場、選挙会場が同一の場所に設けられた場合、同一の選挙長、選挙立会人および投票管理者、同立会人が関係各選挙区の選挙長、選挙立会人、投票管理者、同立会人を兼任することを妨げるなんらの規定もないのであるから別表第二の管理者、立会人等は各関係選挙区の職務を兼任したものとみることができる。被告は選挙長、選挙立会人等は必ず当該選挙区所属の者から選任すべきもののように主張するけれどもその根拠に乏しく、選挙長、投票管理者は広くその改良区総代選挙の選挙権を有する者の中から、投票立会人、選挙立会人は右改良区の選挙人名簿に登載されている者の中から選任することができるのである。又被告は選挙長、選挙立会人が投票、開票、当選人の決定まで同一人で一貫して事務を行われなければならないというけれども、土地改良法施行令の右趣旨の規定はそのようにしなければ選挙の公正を害するというような趣旨に出でたものではなく、単に土地改良区の如く小規模の組織体では事を簡便に処理しようとの趣旨なのであるから右選挙事務を本件の如く別々の者に分属させたからとて違法とはいえない。次に選挙会場の告示は選挙長がこれをなすべしとの規定は必ずしもその上級庁たる選挙管理委員会が右告示をなす権限を排除したものとは解されない。蓋し、選挙管理委員会は本件選挙について全般にわたり管理の権限を有するもので、通常の場合選挙長に選挙会場を指定する権限を委ねているにすぎないのであるから、この権限を自ら行使したとしても、これをもつて違法とするには当らないからであると述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として原告等主張の事実中一、ないし四、の事実は争わないが、その余の事実は争う。本件選挙は次のような事由によつて無効である。すなわち

本件選挙においては第一区から第十二区までの選挙区が設けられているのであるから、各選挙区ごとに選挙会場を設け選挙長は選挙立会人立会の下に投票、開票、選挙会に関する事務を一貫して行うべきであるにかゝわらず、五所川原市選挙管理委員会は右十二選挙区を合併して別表第二の五投票区とし、その投票所として五所川原投票区は五所川原公民館、栄投票区は栄小学校、中川投票区は中川中学校、三好投票区は鶴ケ岡中学校、松島投票区は桃崎稲荷神社と定め選挙会場は五所川原市役所会議室と定めた。土地改良法施行令第十五条は投票区を設置しうることを認めているが、右は一の選挙区を数投票区に分ちうることとしたものであつて本件選挙のように右と反対に選挙区を合併して投票区とすることを許したものではない。本件選挙の行われた当時五所川原堰土地改良区の規約第四十一条には右のような誤つた投票区の定めがあつたけれども、右は全く法令に反する無効のものである。かような誤つた投票区を設定したうえで別表第二記載の者等を投票管理者、同立会人として選任し、(選挙当日現実には同表中の○印を付した者が開票した)開票並に当選人の決定に関する選挙会については第一区から第十二区までの全選挙につき別表第二末尾のとおり選挙長一名、選挙立会人四名を定め選挙会を開いたものであるが、右のうち立会人館山虎雄は選挙人名簿に登載のない無資格者である。のみならず本来土地改良区の選挙においては選挙長、及び選挙立会人、投票管理者、投票立会人等はすべて当該選挙区の選挙権者、選挙人名簿に登載されている者の中から選任すべきものである。かような見地に立てば別表第二記載の者等は所属選挙区以外の選挙区に関しては全く選挙事務の執行もしくは立会の資格を欠き、かくていずれの選挙区においてもかゝる無資格者の関与の下に選挙事務が行われたこととなるのである。本件選挙においては当選人と次点者との差は僅か一、二票にすぎず、選挙当日の有権者数と投票数は別表第三のとおりであるから前記施行令の定めるとおり選挙区ごとに選挙会場が設けられ投票が行われたとしたならば異なる結果が生じたであろうことはみやすいところである。従つて右の違法は選挙の結果に重大な影響を及ぼしたものといわなければならない。更に選挙会場の告示は選挙長がこれを行うべきことは土地改良法施行令第九条に明定するところである。然るに本件においてはなんらその点の権限のない五所川原市選挙管理委員会がこれを行つているのであるが、かような告示はその効力がないことはいうまでもない。

以上述べたとおりであるから被告のした裁決にはなんら違法のかどがなく原告等の請求は棄却さるべきである。

と述べた。

(立証省略)

理由

(一)  五所川原堰土地改良区において昭和三十一年十一月二十二日総代総選挙が行われ、別表第一の各選挙区ごとに当選人が決定されたが、同年十二月四日原告主張の四、記載の選挙人等から各所属選挙区の選挙の効力につき異議申立があり、昭和三十二年一月十日異議棄却の決定がなされ、更に同年二月九日被告委員会に訴願の提起があつたところ同年六月二十日いずれもこれを認容して原決定を取消し、全選挙区の選挙を無効とする旨の裁決があつたこと、原告等はその主張の三、記載のとおり、おのおの第一ないし第十二選挙区所属の選挙人であり、且つ原告山川(第五選挙区所属)同開米(第十選挙区所属)同野呂(第十二選挙区所属)の三名を除くその他の原告等はいずれも右選挙において各所属選挙区から選出され当選人と決定されたものであること、以上の事実は当事者間に争がない。

(二)  原告等は被告委員会の裁決は違法であるからその取消を求めるというのであるが原告等のうち右選挙の当選人である者等が本件訴の利益を有することは明かであるが単なる選挙人にすぎない原告山川、開米、野呂の三名は右裁決によつてなんらその権利ないしは法律上の地位を害せられるところがあるものとは認めがたいから右裁決の取消を求める抗告訴訟を提起し得べき余地はないものというべきである。

それ故第五選挙区の選挙に関する被告委員会の裁決の取消を求める原告山川の訴、第十選挙区の選挙に関する同裁決の取消を求める原告開米の訴、第十二選挙区の選挙に関する同裁決の取消を求める原告野呂の訴はいずれも却下すべきものとし、以下爾余の原告等の訴について判断する。

(三)  土地改良法施行令(以下において単に令という場合は右施行令を指す)によると土地改良区の総代選挙は選挙区ごとに選挙長を選任し、選挙長は選挙立会人関与の下に選挙会場において投票から投票の点検、当選人の決定に至る一連の選挙事務を一貫して行う建前をとり(令第八条、第十二条ないし第十四条、第十六条参照)唯必要があつて(選挙区が広範囲に亘る場合等であろう)一選挙区内に数投票区を設けた場合に限り、右のうち投票に関する事務だけは投票管理者が投票立会人の関与の下に行うこととされているのである。

(四)  ところが五所川原堰土地改良区の本件選挙においては町村合併前の旧町村別に、すなわち第一選挙区を五所川原投票区とし、第二ないし第五及び第九選挙区を併合して中川投票区とし、第六、七選挙区を併せて栄投票区とし、第八、第十、及び第十一選挙区を併せて三好投票区とし、第十二選挙区をもつて松島投票区とし、以上各投票区につき別表第二のとおり投票管理者(同代理者)並に同立会人を選任し、(選挙当日現実に関与したものは同表中○印を付した者である)投票所として五所川原投票区は五所川原公民館、栄投票区は栄小学校、中川投票区は中川中学校、三好投票区は鶴ケ岡中学校、松島投票区は桃崎稲荷神社に指定告示し、全選挙区の選挙会(令第十六条)のため会場を五所川原市役所と指定し、選挙長及び選挙立会人を別表第二末尾のとおり選任し、その管理、立会の下に選挙を行つたことは当事者間に争のないところである。

かような選挙の執行が(三)に述べた土地改良法施行令に反する違法のものであることは疑を容れない。

原告は右のような投票区の設定は改良区が五所川原市選挙管理委員会の同意を得且つ当時の規約第四十一条にこれを定めた規定があつたのであるから違法ではないと主張し、成立に争のない乙第二号証によると前記投票区の定めと大同小異の第一ないし第五投票区の規定があつた事実を認められるけれども選挙区を分つものでなく、数選挙区を合併して一投票区とするが如き規約の規定は全く土地改良法施行令の前示規定に反する違法なるものといわなければならない。

成立に争のない乙第九号証と前示当事者間に争のない事実とによると前記投票所たる五所川原公民館は第一選挙区内に、栄小学校は第六選挙区内に、中川中学校は第三選挙区内に、鶴ケ岡中学校は第十選挙区内に、桃崎稲荷神社は第十二選挙区内に在ることが認められるので右以外の選挙区所属選挙人はわざわざよその選挙区内である各投票所に赴いて投票しなければならなかつたわけである。

思うに土地改良法施行令には選挙会場を如何なる場所に設けるべきかについてはなんら明文の規定がないけれども、特段の事情のない限りはこれを当該選挙区内に設けるべきであることは選挙人の便宜上当然のことと予定しているものと解すべく、本件においてはかかる特別の事情の認むべきものがないから本件選挙はこの点においても違法たるを免れない。

又土地改良法施行令第九条によれば選挙会場の告示は選挙長がすべきであるのに、本件選挙においては右規定に反し五所川原市選挙管理委員会がこれを告示したことは当事者間に争がない。

(五)  よつて更にかような選挙執行の違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるかどうかを検討しなければならない。

投票、投票の点検、当選人の決定に関する事務は同一管理者が同一立会人の関与の下に一貫して行うべきであるのに本件選挙においては違法に数選挙区のものを併合して分担執行したことは前記のとおりであるが数選挙区の選挙を同一投票所で行つたもの(五所川原及び松島両投票区以外のもの)にあつても各選挙区の投票用紙は他と識別し得て混同のおそれのないものを用い、これによつて各選挙区別に開票の結果を挙げた旨の原告主張の事実は被告の明かに争わないところであるからこれを認めたものとみなされ、しかも本件口頭弁論の全趣旨によると選挙立会人館山虎雄以外の管理者及び立会人はいずれも法定の資格を有する者の中から選任されたことが認められるのであるから、この限りにおいては選挙区設置の趣旨は害われていないものということができる。(況んや他の選挙区の投票所と併合せられなかつた第一選挙区においては尚更である)しかして土地改良区の総代選挙において公職選挙法上の選挙に做わずに投票から当選人の決定に至る一連の事務を同一立会人の関与の下に同一管理者に通して行わせようとした趣旨は概してその選挙の規模が小さいことに鑑み、却つて徒らに煩瑣となり、不経済に亘ることを避けしめようとするにあるものと解されるから、よしんばこれに違反し本件のような選挙の執行がなされたからとて、単にそれだけのことで選挙の自由公正が害されるというはずのものとは考えられないし、又現にそのために選挙の自由公正が害われたと認めるべき証拠もない。

成立に争のない甲第十三号証によると前記館山虎雄は五所川原市大字川山(第九選挙区)に農地を所有している者であるが選挙人名簿に登載されておらず、したがつて選挙立会人たる資格を有しなかつた事実が認められるので同人がその職務を行つたことは違法ではあるが(令第八条第三項)当事者間に争のない事実によれば別表第二末尾記載のとおり、他に法定数の選挙立会人が関与して選挙会の事務が行われたことが認められるので、単にかような無資格者の関与があつたというだけでは直ちに選挙の結果に異動を生ずるおそれがあるものとはいえない。

被告は選挙長及び選挙立会人はすべて当該選挙区所属の者から選任すべきであるとの前提に立つて本件選挙では前記の如く違法な統合が行われた結果、選挙長及び選挙立会人はその出身選挙区以外については本来資格権限がないのに選挙事務を行つたこととなる旨主張するけれども、令第八条にはこれ等選挙事務に当事者の資格要件として広く「選挙権を有する者」とし「選挙人名簿に登載されている者」としているのであるから被告の右主張はすでにその前提において誤つているといわなければならない。

前記のような違法な投票区の設定によつて選挙の結果に異動を生ずるおそれが有るかどうかに関し最も重視すべき点は投票所の遠近による投票率への影響という点である。そこでこの点について考察をすすめるに、乙第九号証によると次の如く認められる。

先ず第一選挙区はなんら他の選挙区の投票と併合されず且つその投票所は固有の選挙区内に設けられたのであるから、この点については全く問題を生ずる余地がない。

又第三選挙区及び第六選挙区はいずれも他の選挙区の投票所と併合されたけれども、いずれもその場所は当該選挙区内に設置されたのであるからこれ亦右の点は問題にならない。

中川投票区に併合された第九選挙区及び第四選挙区についてみると前者はその最も遠いところで投票所(第三選挙区内)まで六百メートルを出でず、後者は九百メートルないし一、四キロメートルにすぎず、又栄投票区に併合された第七選挙区は投票所(第六選挙区内)まで九百メートルないし一、五キロメートルにすぎない。してみるとこれ等の選挙区においてはこの程度の距離では前記違法に設定された投票所で投票するのと、仮にこの点を適法に当該選挙区内に設けた場合とで、投票所の遠近ということのため投票率にみるべき影響を及ぼすことはないものとみるのが相当である。

又選挙長がなすべき選挙会場の告示を市選挙管理委員会がした違法は、市選挙管理委員会はもともと本件選挙の管理に当る機関であること、選挙長の告示でないが故にその無効を確信して敢えて投票をしなかつた者があつたであろうというような事情も考えられないので、これ亦選挙の結果に異動を及ぼすおそれのない違法にすぎないものと認められる。

以上の次第であるから本件選挙中第一、第三、第四、第六、第七、第九の各選挙区の選挙に関しては選挙法令の違反はすべて選挙の結果に異動を生ずるおそれがないものといわなければならない。

しかるにこれと異る見解によつて右列挙の選挙区の選挙に関しても五所川原市選挙管理委員会の決定を取消し、右選挙を無効とした被告委員会の裁決は違法である。それ故右裁決の取消を求める原告三浦、同外崎、同高橋市太郎、同藤田、同鹿内、同藤森の各請求は理由があるからこれを認容すべきである。

しかし爾余の選挙区に関し考えるに

(1)  第八、第十一選挙区関係

成立に争のない乙第六号証によると第八選挙区における最下位当選人と次点との得票差は二票、第十一選挙区におけるそれも二票にすぎないことが認められ、これに対し選挙当日の有権者数は第八選挙区は百十四名、第十一選挙区は二百七十六名(第十選挙区は百四十五名)のところ右三選挙区の投票総数は五百十票であることは当事者間に争がない。ところで乙第九号証によると投票場鶴ケ岡小学校(第十選挙区内)までは第八選挙区から二キロメートルないしは二、五キロメートルもあり、又第十一選挙区からは一キロメートルないし二、四キロメートルもあることが認められるからもし選挙会場が適法に選挙区内に設けられていたならば更に投票率を高め、前記選挙に異つた結果を及ぼしたであろうと推認される。

(2)  第二選挙区関係

乙第六号証によると第二選挙区の最下位当選人と次点との得票差は僅か一票であることが認められ、選挙当日の有権者数は九十一名でこれと投票場を共にした第三、四、五、九選挙区のものとを合せるときは三百八十六名のところ、右五選挙区投票総数は三百五十六票であることは当事者間に争がない。ところで乙第九号証によると第二選挙区から投票場中川中学校(第三選挙区内)まで二、六キロメートルないし三、八キロメートルもあることが認められるから、もし選挙会場が適法に第二選挙区内に設けられていたならば更に投票率を高め、前記選挙に異つた結果を生じたであろうと推認される。

そうしてみると右(1)(2)の選挙区の選挙に関し、選挙の結果に異動を及ぼすおそれのある違法があると判断して原決定を取消して、選挙を無効とした被告委員会の裁決は結局相当である。

それ故右裁決の取消を求める原告成田、同高橋文治、同小笠原の訴はその理由がないからこれを棄却すべきである。

(六)  よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

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